炎上対策の体制づくり|クライシスマネジメントで整える監視・初動・役割分担
炎上対策というと「不適切な投稿をしない」「炎上しやすいワードを避ける」といった、担当者個人の注意の話になりがちだ。それも必要だが、実際に炎上が起きたときに被害を左右するのは、組織として決めごとがあるかどうかである。
誰が気づくのか。誰に上げるのか。誰が止める判断をするのか。この3つが決まっていない組織では、最初の数時間が「社内で誰に連絡すべきか探す時間」に消える。
この記事では、クライシスマネジメントの枠組みを使って炎上に備える体制のつくり方を整理する。投稿前の予防策や個別の事例については【担当者必見】SNS炎上を防止するマニュアルと知っておきたい3つの心がけで扱っているので、そちらとあわせて読んでほしい。
クライシスマネジメントとは
クライシスマネジメント(危機管理)は、すでに起きてしまった危機による被害を最小限に抑え、通常の状態へ戻すまでの一連の活動を指す。
似た言葉と混同されやすいので、先に整理しておく。
| 用語 | 対象とする時点 | 目的 |
|---|---|---|
| リスクマネジメント | 危機が起きる前 | 発生確率と影響を下げる |
| クライシスマネジメント | 危機が起きた後 | 被害の拡大を止め、回復させる |
| BCP(事業継続計画) | 危機が起きた後 | 事業を止めない・早期に再開する |
BCPは「Business Continuity Plan(事業継続計画)」の略で、事業の継続そのものに特化している点がクライシスマネジメントと異なる。リスクマネジメント側の考え方はリスクマネジメントとは?事例を交えて徹底解説!で詳しく扱っている。
リスクマネジメントは「炎上しないようにする」、クライシスマネジメントは「炎上してしまった後にどう振る舞うか」、BCPは「炎上で問い合わせが殺到しても業務を回す」——SNSの文脈に置き換えるとこう分かれる。
国際規格の「ISO 22361(Crisis management — Guidelines)」でも、組織のトップマネジメントが平時から危機管理体制を整備し、継続的に見直すことの重要性が示されている。体制づくりは危機が起きてから着手するものではない、という考え方だ。
**この3つは順番に整備するものではなく、同時に必要になる。**炎上を完全に防ぐことはできない以上、起きた後の手順を持たずに予防だけを固めても片手落ちになる。
炎上対策の体制は「監視・判断・実行」の3層で考える
体制づくりで最初に決めるべきは、次の3つの役割だ。人数の話ではなく、誰が何を決めるかの話である。
| 層 | 役割 | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 監視 | 異変に気づく | 何を監視するか、どのくらいの頻度か、どの水準を超えたら上げるか |
| 判断 | 対応方針を決める | 誰が意思決定者か、その人が不在のときは誰か |
| 実行 | 対外的に動く | 誰が発信するか、法務・広報の確認をどこまで通すか |
監視・判断・実行の3層。人数ではなく「誰が何を決めるか」を先に決める
小規模な組織であれば、1人が複数の層を兼ねても構わない。問題は兼務そのものではなく、その人が不在のときの代理が決まっていないことだ。炎上は営業時間内に起きるとは限らない。
平時にやること
1. 監視の対象と頻度を決める
監視というと自社アカウントへのリプライを見ることだと思われがちだが、炎上の初期段階では自社名を出さない言及のほうが多い。「あの会社の広告」「例のCM」といった書かれ方をする。
最低限、次を対象にする。
- 社名・ブランド名・主要サービス名(表記ゆれを含む)
- 自社アカウントへのメンション・引用
- 進行中のキャンペーン名・ハッシュタグ
頻度は、平時は1日1回、キャンペーン実施中や新商品の発売直後は数時間おきに上げる、といった形で強弱をつける。常時同じ頻度で見ようとすると続かない。
具体的な監視手法はソーシャルリスニングでもっとSNSを効果的に運用しよう。ハウツーを解説、手作業での検索方法はエゴサーチとは?やり方やメリット・デメリットを解説!【今さら聞けない】で解説している。
2. エスカレーションの基準を数字で決める
「炎上したら報告する」という基準は機能しない。何をもって炎上とするかが人によって違うからだ。
**判断に迷わせないために、基準は数字で置く。**たとえば次のような形になる。
- 通常時の10倍の言及があった
- 否定的な言及が1時間で50件を超えた
- ニュースサイトやまとめサイトに転載された
- テレビ・新聞から問い合わせが来た
数字は業種と平常時の言及量によって変わるので、まず平常時の水準を測ることから始める。平常時が分からないと「増えた」の判断ができない。
3. 想定問答と連絡網を用意する
起きてから文面を考えると、時間がかかるうえに判断が鈍る。よくある指摘については、あらかじめ回答の骨子を用意しておく。
連絡網は、氏名だけでなく**「夜間・休日に確実につながる手段」**まで含めて整備する。社用メールだけの連絡網は、休日に機能しない。
発生時にやること
初動で最も重要なのは「事実確認を先にする」
炎上が確認された直後にやるべきは、謝罪でも削除でもなく事実の確認だ。
- 何が問題とされているのか(推測ではなく、実際の投稿を読む)
- 指摘は事実か、誤解か、意図的な曲解か
- 自社に非があるのか、無いのか
ここを飛ばして動くと、後から前言撤回が必要になり、二次炎上を招く。
「すぐ削除」は必ずしも正解ではない
問題となった投稿を即座に消すと、隠蔽したと受け取られることがある。すでにスクリーンショットが拡散している場合、削除は火に油を注ぐ。
削除するかどうかは、次の観点で判断する。
- そのまま残すことで被害が拡大し続けるか
- 削除した事実を説明できるか(「不適切な表現があったため削除した」と明示できるか)
- 法的・権利上の問題があるか
削除するにせよ残すにせよ、その理由を後から説明できる状態にしておくことが条件になる。
謝罪は方針が固まってから
部分的な謝罪を小出しにすると、そのたびに新しい火種を作る。対外的な発信は、事実確認と対応方針が固まってから一度にまとめて行う。
その間に沈黙が続くことを不安に感じるかもしれないが、「確認中である」旨を短く出しておけば、無反応とは受け取られない。
初動が早かった事例
一口サイズの菓子に幼虫が混入しているという苦情がSNSに投稿された際、製造元のチロルチョコ株式会社はわずか3時間で対処を発表した。この速さが実現できたのは、監視によって早期に気づけたことと、誰が判断するかが決まっていたことの両方が揃っていたからだ。
逆に言えば、どちらか一方でも欠けていれば3時間では動けない。気づくのが翌朝になれば、その間に拡散は進む。気づいても決裁者を探している間に半日が過ぎることもある。
必要なツール
体制を回すために、次の3つが揃っているかを確認する。
1. 監視の手段。手作業での検索でも始められるが、言及が1日数十件を超えると追いきれなくなる。過去に遡って推移を見たい、急増を検知したいという段階になったら、ソーシャルリスニングツールを検討する。AIを使った近年の手法はAI時代のソーシャルリスニングとは?顧客インサイトを掘り起こす最新手法を解説、監視の自動化についてはSNS自動監視ツールとは?特徴や活用方法、最新サービス「Oreo」も紹介にまとめている。
2. 記録の手段。誰がいつ何を確認し、どう判断したかを残す。スプレッドシートで十分だが、後から時系列で再現できることが条件になる。対外的な説明を求められたときに必要になる。
3. 連絡の手段。夜間・休日に確実につながるチャネル。チャットツールの通知設定まで含めて決めておく。
リスクマネジメント側もあわせて整える
体制ができても、炎上そのものを減らす取り組みは別途必要になる。投稿前のチェック体制、炎上しやすいテーマの把握、ネット炎上保険といった予防策は【担当者必見】SNS炎上を防止するマニュアルと知っておきたい3つの心がけで扱っている。
実際にどのような投稿が炎上に至ったかはTwitterで炎上してしまった例とメカニズム、対処法をまとめて解説が参考になる。事実無根の情報が拡散した場合の対応は【SNS時代は必須】風評被害対策の方法を解説!ブランドイメージを低下させないための施策にまとめた。
まとめ
炎上対策を担当者の注意力に依存させると、その人が休んだ日に破綻する。組織として最低限決めておくべきなのは次の3つだ。
- 監視——何を、どの頻度で見るか。平常時の水準を測っておく
- 判断——誰が決めるか、不在時の代理は誰か。エスカレーション基準は数字で置く
- 実行——誰が発信するか。事実確認を先にし、方針が固まってから一度に出す
クライシスマネジメントは起きた後の枠組みだが、その準備はすべて平時にしかできない。炎上が起きてから体制を作ることはできない。
参考
- ISO 22361:2022 Security and resilience — Crisis management — Guidelines(国際標準化機構) https://www.iso.org/standard/50267.html